2010年5月15日土曜日

「科学技術政策に関するご意見募集について」についての意見

前回書いたように、文科省が行っていた科学技術政策に関する意見募集に対しての意見を貼り付けておく。締切前日にでっち上げた資料だけに、詳細な詰めは怪しいところではあるものの概ね言いたいことは伝わる程度にはなっているのではないか。
なお、最初に作ったのはPowerpointで、以下のリンクからPDF形式で開くことができる。その後に、PDFではなくてテキストで出してね!というお叱りがあり、さらに急いで半日でとりあえず作ったのがテキストの方。もしお暇であればご覧いただき、さらに暇をもてあますようであればご意見いただけると幸いである。

今後の科学技術政策の抜本的改革案(PDFファイル、たいそうなタイトル付けたもんだなw)


(やむを得ず作ったテキスト版)


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わたしは、今後の科学技術政策についての意見として、「研究者が研究に集中できる環境づくり」を新たな研究開発の支援策として位置づけることを提案いたします。


まず、科学技術が日本の生き残りのための最重要課題であるという認識は政府にもおありかと思います。科学技術基本計画や新成長戦略を見ましても、同様の文言は容易に見つけることが可能です。ただし実際のところ、我が国の科学技術関係予算は他国と比較すると多いどころかむしろ少ないというのが現状です。今後も続くであろう熾烈な競争を前に、この予算を維持、拡大させていくことは不可欠ではないかと思います。
しかし、予算を拡大させていくことと、これまでの延長で今後の科学技術政策を遂行していくことは必ずしもイコールではありません。「質」と「量」という指標で考えると、これまでの文科省の施策は「量」、つまり予算の金額にのみ焦点が当てられて、「質」、つまりそれをどのように活用するかという観点が欠如していたのではないかとわたしは考えます。
このように申し上げますのには二つの理由があります。第一に、一部研究者への予算の集中への懸念があります。近年順調に科学技術関係予算が拡大したことにより、優秀な研究者は潤沢な予算を獲得することができるようになりました。これは大変結構なことですが、反面で一部の研究者へ予算が集中し、費用対効果の点、研究室間での予算格差の固定化などの問題が指摘されるようにもなっています。
第二に、財政状況の悪化です。平成21年度予算での公債依存度は43%に及び、国と地方を合わせた長期債務残高は対GDP比で168%になる見込みとなるような状況の中、無尽蔵な予算拡大を続けることはできません。単純な予算拡大ではなく、その予算をどうやって額面以上に生かすかという方向性が模索されて然るべきではないかと思います。

こういった問題認識からわたしが提案いたしますのが、冒頭にあります「研究者が研究に集中できる環境づくり」です。研究活動に必要であるのは大雑把に言って「金」と「時間」です。さまざまな施策の結果、「金」という分かりやすい指標は拡大しつつあります。しかしその一方で、「時間」については「金」ほどに考慮されず、むしろ失われつつあります。これは文科省による調査、若手研究者による提言から明らかです(詳細は添付資料を確認のこと)。さらに重要であるのは、最近になって研究の成果である論文数が減少傾向にあるという事実です。これもトムソンロイターの発表論文データベースから明らかとなっています。(同)
そこで、わたしは研究者へ「時間」を与えることを主張します。単純に時間を増やすことはできませんが、これは研究者が現在行っている、研究以外の仕事を減らすことで実質的に可能となります。そして、この改善の最良の手段とわたしが考えるのが研究開発を管理する新たな電子システムの構築です。
理由としてはまず、費用対効果が大きいことが挙げられます。基盤的なシステムの機能、利便性の向上は研究者全体に影響を及ぼし、それが価値あるものとなれば効果は非常に大きくなります。第二には研究者の側からの具体的な要望があることが挙げられます。それらの情報を元にシステムを構築できれば、書類作成や審査などの手間を大幅に減らすことが可能です。
最後に、現行のシステムの限界が挙げられます。現行でもe-
Radというシステムが稼働しており、電子的に応募の受付、審査が可能となっております。しかし、このシステムの目的は研究費の不合理な集中、重複の排除にあり、研究者の利便性への配慮という観点がそもそも欠落しております。また、システム上で各府省のさまざまな事業に応募することができますが、その応募フォーマット、制度等の統一を伴わないままにシステム化しているために事業ごとに応募方法が異なるという複雑なものになっています。これらを総じて言うと、現行システムは事業担当者中心の設計となっており、研究者が享受できるメリットは非常に少ないと言わざるを得ません。

そのため、新たなシステムにおいては「事業担当者中心」から「研究者中心」へと発想を転換することを提案します。具体的にはまず、応募、審査、報告といった助成事業の一連の流れの中にある様式の統一化、簡略化を行う必要があります。これにより、研究者が事業ごとに応募の方法を理解する手間を軽減することができます。これは単にシステムの改修で済む話ではなく、各事業との擦り合わせが不可欠です。それゆえに容易なことではありませんが、このことなしにシステム化したところでその効果は限定的です。
次に、研究者情報の管理機能を組み込むことが必要です。研究者の経歴や業績、過去に受け入れた研究費などの情報は、現状では個々の応募ごとに個々の異なった様式に対して研究者自身が作成しています。ただ、システム上でこれらの情報をデータベースとして保有しておけば、個々の応募ごとに書類を作成する必要はありません。過去の研究費などは応募ごとに自動的に取り込まれるようにすれば、正確性という点でもメリットがあります。
最後に、紙媒体前提によるシステムから、システムの中ですべてを完結させるという発想の転換が必要です。現状では応募をシステム上で受け付けていても、最終的には紙媒体で印刷できる形(PDFファイル)で出力されるという方式が一般的です。これは旧来の様式の変更を行わないままにシステム化を行った結果でしょうが、このためにシステム化によるメリット(たとえば他のデータベースへのリンク)が薄れ、さらにはシステム上での提出と紙での提出と応募の手間を二重にしてしまっています。システム上ですべてが完結するようにすることで、研究者の負担を軽減することが可能です。
これらの視点に基づく新たなシステムは、研究者の負担軽減はもちろんのこと、その他の波及効果も期待できます。第一に研究成果の国民への発信が期待できます。研究者の過去の業績のデータベースを一般国民にも分かるような概要を付け加えた上で解放することにより、これまで十分に行われてこなかった研究成果の国民への発信を新たな手間をかけずに自動的に果たすことができるようになります。これにより、科学への興味関心の惹起(未来の研究者育成)、科学技術政策への理解(予算拡大への理解)を期待することができます。第二に、共同研究、産学連携の促進です。データベースを活用することにより、個々の研究者がどのような研究を行っているのかを知ることができるため、共同研究、産学連携の促進させることができます。(米国では連邦助成研究成果のオープンアクセス義務化の議論もあります(H.R.5037:Federal Research Public Access Act of 2009))

今、科学技術政策は岐路に立っています。第四期の科学技術基本計画に向けて議論が進められているところですが、これまで述べてきたとおり、現行の単純な拡大路線ではやがて限界が来ることは目に見えています。かつ、何よりも認識いただきたいのは現行の施策の中で、成果は増加どころかむしろ減少しつつあるということです。こういった認識を元に、わたしはこれまでの施策を見直して、予算の拡大とは別に「研究者が研究に集中できる環境づくり」をもう一つの柱として位置づけること、そしてその具体的な方策として新たな発想に基づく研究開発管理のシステム構築を提案いたします。
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