2011年1月18日火曜日

知的財産マネジメント研究会(smips)へ参加してきた。1/2 科学技術コモンズについて

 1月15日(土)に開催された知的財産マネジメント研究会(smips)へ参加してきた。博士のシェアハウス管理人の山田さんのメーリングリストで開催を知り、面白そうだったので参加させていただくことに。ちなみに知的財産関係の知識はほぼ皆無。当初の目的は科学技術コモンズ。これはJSTが昨年10月から始めた事業で、たまたまJSTニュースの記事を眺めていて発見して興味を持ったのであった(元記事はこちら → JSTが“専門集団”でなければならない理由)。まずは科学技術コモンズとは何かについて簡単にまとめておく。

科学技術コモンズ
目的
特許等が制約とならない研究環境の提供と特許の価値向上のための支援により、特許等の活用促進及び研究活動の活性化を図る。

概要
大学や企業等が保有する特許等を研究段階において自由に使用できる環境を構築する。また、特許マップの提供、J-GLOBALやJ-STOREと連携して関連する論文等の科学技術情報の提供や特許のデータ強化等の支援を行う。

特徴
・特許の自由利用環境
研究段階において、特許を無償で自由に利用可能
・特許マップ
提供された特許について、特許マップを作成して分かりやすく情報を提供
・試験費・技術移転調査費
特許技術を補完するデータの追加取得や試作品製作のための試験費、技術移転のための調査費の提供
配付資料より引用。詳細はサイトをご覧ください → 科学技術コモンズ-JST産学連携・技術移転事業

 なぜこの科学技術コモンズに興味を持ったかというと、この仕組みが日本の科学技術の抱える問題解決の糸口となりはしないかと期待したため。その問題とは、大学等の研究機関で生まれた研究成果があまり社会で活用されていないという点である。たとえば特許の話で言えば、件数では知的財産を受諾者に帰属させる日本版バイドール法などにより徐々に上昇傾向にあるようだが、その利用率はずっと20%前後で推移しているそうである。(JSTnews2010年11月号より数字を拝借)
つまり、成果は増えているけれども、それが利用されているわけではないという状態にある。
 成果が活用されないということは2つの意味で問題と思われる。まずは、それが大学にとっての収入源として機能しないという点。バイドール法の目指すところは公的資金による研究開発から生まれた成果を事業化の促進にある。法人化に象徴されるように大学の独立が求められている中、これがうまく働けば大学の貴重な自主収入源となり得る。アメリカで導入された法案が「日本版」として輸入された経緯には、このような算段があったのだろう。しかし、成果が活用されないことには事業も何も生まれようがない。
 もう一点は、公的資金を費やして研究を行う説得力が薄れるという点。もちろん大学の研究は目の前の成果のためだけに存在しているわけではないにせよ、何の価値も生み出さなくて良いというわけでもない。財政再建への見通しも立たない現状において、今後も事業仕分けのような形で個々の事業の費用対効果が厳しく問われることになるのは疑いようがない。すべての成果を事業化するのは不可能にせよ、国民の目にも明らかな事業化成功モデルを生み出しておくことは将来の科学技術の発展のために不可欠なことだろう。

 これらの問題を解決するためにどうあるべきかというところで、科学技術コモンズという仕組みは興味深いと感じたのだった。科学技術コモンズ上に掲載されている特許は、研究段階であれば無償で自由に使うことができる。利用してみるにあたっての余計な手続きを行う必要がないので、企業側としては大学の持つ特許をこれまでよりも気軽に利用してみることができるようになる。そして、試してみて製品化に結びつきそうだというところになれば、特許の提供者と利用者との間でライセンス契約を結ぶことになる。
 これは何となく、フリーミアムの考え方に似ている。フリーミアムとは、「基本的なサービスを無料で提供し、さらに高度な機能や特別な機能について料金を課金する仕組みのビジネスモデル」(Wikipediaより引用)とされる。たとえばSkypeやEvernoteだろうか。無料でも利用できるが、料金を払うことによってさらに多くの機能を使えるようになるという形で収益を得ようとしている。誰だってよく分からないものに金を払いたいとは思わない。そうである以上、とりあえず使ってもらって、それに価値を見いだせるようであれば契約を行うという形がもっとも理想的であろう。そして実際に、このようなモデルを利用してSkypeやEvernoteは多くの有料ユーザを勝ち得ているのである。


 このように、科学技術コモンズは結構期待できる仕組みなのではないかと思う。もっとも、システムがいかに素晴らしくとも成果が上がるかどうかはまったくの別問題である。とりあえずのお試しからライセンス契約に至るまでの道のりは長い。そこに行き着くかどうかは個々の特許の中身如何であり、この事業の成否はシステムで扱う特許数を増やすことができるかどうかにかかっている。
 これは現状を見ると実に寂しい限りである。データ提供機関として登録されているのは「大学・高専」でたったの39機関。(特許提供者数 | 科学技術コモンズ-JST産学連携・技術移転事業)日本の大学は全国で700以上存在するにも関わらずである。この事業が始まってからまだそれほど経っていないということはあるが、せめて国立大学法人は率先して参加するべきではないだろうか。さらに言えば、公的研究費による研究成果があれば、何らかの理由がない限りはこういった場所への掲載を強制するということもあって然るべきと思われる。強制というと聞こえは悪いが、国民の税金を使っている以上その成果は広く社会に還元されるべきで、そのための手段として成果の公開が有効なのであればぜひ行うべきだろう。そこで何らかの成功モデルを生み出すことができれば、税金で大学が研究を行うことに対して前向きに捉える世論を醸成させることにもつながってくるのではないか。(ちなみに、この辺のことを講演終了後に聞いてみたところ、「やりたいのはヤマヤマだが、現状では難しい」という回答だった。他システムとの連携ということも現状では特に考えていないのだという。これは今後、ぜひ検討していただきたいところである)

 とりあえず、こんな調子で基本的に感心していたのだけれども、科学技術コモンズの次の講演で紹介されたサイエンスコモンズはさらに面白いものであったのでこっちも次のエントリで書き残しておきたい。ものすごくざっくりな言い方をすると、科学技術コモンズが研究の成果として得られた特許情報のみをコモンズ化しようとしているのに対して、サイエンスコモンズは研究活動のプロセス全体をコモンズ化しようという、より巨大なプロジェクトといった感じのではないかと思う。

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