2010年11月10日水曜日

次期e-Radがどうあるべきかを妄想してみる。

久々にまともな記事更新だなということはさておき。先日まで行われていた熟議カケアイにて、研究費を使い易くするためにどうすれば良いかということがテーマとなり、その中のひとつの策としてe-Radの充実が挙げられていた。そして、わたしはそこに乗じて随分と好き勝手に理想論をぶちまけていたところである。詳細は以下のリンクをご参照のこと。

研究費を使い易くするための方策を、一層具体化するために(熟議カケアイ)

わたしがシステムの充実を重要と捉えるのは自分自身が過去に携わっていてそれなりに分かるということもあるけれども、それがすべての研究者にとって避けられないプロセスであるため。その部分を効率化することは、すべての研究者にとって利益のあることとなる。また、簡単便利なシステムとなれば研究者がシステムと格闘する時間が削減され、相対的に研究者へ研究するための時間を提供することになる。研究費の総額を増やすことが難しい現状の中、研究時間の提供は研究成果の向上のために打つことのできる数少ない手である。このように、影響範囲が広く日本全体の研究環境の底上げにつながるのがシステムの改善と考えるのである。


わたしの考えはさておき、上記の熟議の元ネタである「予算監視・効率化チーム」中間報告(熟議HPのPDFへリンク)には次期e-Radという文言が見える。曰く、「府省共通研究開発管理システム(e-Rad)の機能を強化することで、研究費などの業務を省力化する」。具体的なアイディアとして挙げられているのは研究者の業績や略歴を審査に活用できるようにすることと、他のデータベースと連携して相互に利用できる仕組みを作ること。この元ネタはおそらく今年3月に行われた科学・技術ミーティングin大阪での宮川剛氏のプレゼン資料「これからの科学・技術研究についての提言」なのだろう※。中間報告にはこのアイディアに限らず、この提言をベースとした提案が数多い。

※ この「提言」自体は昨年2月に発表され、ニュースとしても取り上げられたものであるが、実際に文科省の資料に取り上げられるほどのインパクトを持つようになったのは宮川氏のプレゼンによるところが大きいと考え、このような記述とさせていただいた。現物は以下URLからダウンロード可能。

http://ibr.neuroinf.jp/modules/xoonips/detail.php?item_id=25802

これらの提案にまったく異論はない。それぞれ実現することができれば、研究者に限らず研究に携わるすべての方にとって利益のあることだろう。ただ、極めて大きな問題は、どのようにそれを実現するかである。かなり目立つ場所にアイディアとして出てきた以上、これらの機能は次期e-Radに実装されることは間違いないだろう。しかし、システム上で「できる」ということが「使い易い」とは限らず、それゆえに「効率的になる」とも限らない。「どのように」できるか、という部分が決定的に重要になってくるのである。

そういうわけでタイトルのとおり、次期e-Radがどうあるべきかということについて妄想してみたい。自分に相応の能力と肩書きがあるのならば「提案」とでも言えるのだろうが、そうでない以上わたしができるのは「妄想」することくらいである。「ドラえもんのうた」でも口ずさみながら、眺めていただければ幸いである。


さて、検討すべき課題は以下の二つ。

・研究者の業績や略歴を審査に活用
・他のデータベースと連携して相互に利用できる仕組みを作る

挙げられている課題は二つだが、実質は後者が前者を包含するので一つと言っても良い。すなわち、各システムの連携という大きな課題があり、その具体的な連携の一つが業績情報などの審査への活用である。今回はこの具体的に挙げられている例について、どうするべきかを考えたい。

どうすべきかを考える前に現状の問題点を確認しておく。問題は端的に言えば、現在の申請の仕組みでは複数のシステムでのデータ連携ができず、それによって利用者に不便を強いていることである。略歴や業績を登録させようというデータベース(ReaD等)があるにもかかわらず、その情報はそのシステム内でのみ活用されてそれ以外の価値を持たない。そして、研究者はその手の情報を応募を行うたびにそれぞれのフォーマットで登録させられてしまう。これは研究者にとって大きな手間であり、さらにデータベースに情報を登録するインセンティブを削いでいる。そして、その結果としてデータベースの価値を低めることにもなるという調子で、何も良い結果を生み出していない

こういった問題に対して提案されているのが、各システムを連携させて共通で利用できる情報は共用するような仕組みの構築である。情報が共有されることにより、研究者にとっては一度登録してしまえば複数のシステムで同じ情報を入れる必要がなくなる。審査に用いられるということであれば、また、そこに情報を登録することにより今後の応募でその情報を活用することができるというインセンティブがあれば、データベースは当事者の意識に任せている現状よりも確実に充実する。データベースが充実すれば、本来の目的である「産学官連携、研究成果の活用、および研究開発の促進」も進展することが期待できる。

こういったことを実現させるためにはどのように連携が行われるべきか。どのようなシステム構成とするべきか。以下、ポイントを絞って簡潔に検討してみることとする。

・検討の対象とすべき情報は何か
現状のReaDとResearch mapを見たところ、研究者に紐付く情報としてはおおまかに分類して以下のようなものがある。これらを検討の対象とする。

① 所属情報(所属機関、役職、氏名、ふりがななど)
② 業績情報(論文、著書、知的財産権、講演など)
③ 経歴情報(過去の所属機関、役職など)
④ その他情報(研究キーワード、コミュニティ、住所、HPなど)


・現状、これらの情報を持つのはどのシステムか
現状の役割分担はどうなっているか。おおよそのところ以下のとおり。

① 所属情報(所属機関、役職、氏名、ふりがななど)
  → e-Rad
② 業績情報(論文、著書、知的財産権、講演など)
  → ReaD, Research map
③ 経歴情報(過去の所属機関、役職など)
  → ReaD, Research map
④ その他情報(研究キーワード、コミュニティ、住所、HPなど)
  → ReaD, Research map


・どのシステムが情報を持つべきか
どのシステムが情報を持つべきか。この点については、どの情報が競争的資金の審査にとって必要か(必要でないか)という観点から切り分けを行ってはいかがかと思う。すなわち、不可欠な情報は申請・審査用のシステムで保有し、それ以外の部分はそれ以外のシステムが保有する。上記の①から③までは前者に該当し、④のみが後者に該当する。

① 所属情報(所属機関、役職、氏名、ふりがななど)
  → e-Rad
② 業績情報(論文、著書、知的財産権、講演など)
  → ReaD, Research map → e-Rad
③ 経歴情報(過去の所属機関、役職など)
  → ReaD, Research map → e-Rad
④ その他情報(研究キーワード、コミュニティ、住所、HPなど)
  → ReaD, Research map

④に該当する情報は直接審査にとって必要ではなく、①から③とは区別されるべきである。また、Reseach mapにおけるキーワードやコミュニティのように、これらの情報は各システムのいわばウリとなる部分であり、汎用的な情報として扱われるべきものではない。各システムは①から③を研究者の基礎情報として取り込んだ上で、それ以上についてはそれぞれの思想で保有すれば良いのではないか。


・連携は具体的にどのように行われるべきか
前項に挙げたような体制となれば連携すべき情報はすでに同じシステム内に持っているので、申請・審査時のシステム間でのデータ連携は発生しない。次に、それらの情報をどのように参照・登録させるかについて考えてみる。

① 所属情報(所属機関、役職、氏名、ふりがななど)
② 業績情報(論文、著書、知的財産権、講演など)
③ 経歴情報(過去の所属機関、役職など)

①と③については研究機関の事務職員が管理すれば良いので、そもそも応募時に研究者自身による登録の作業は不要である。①は現状のe-Radでも事務職員が管理する情報である。③は導入時に本人による確認が必要となるが、一度正しく登録されてしまえばその後は①の情報を追加していけば良いのでやはり本人が登録する必要はない。

②については本人があらかじめ登録しなくてはならない。また、応募時にはその内容に関連する業績を選択するという作業が発生する。ただし、同システム内にこれらの情報が存在すれば、この作業は全体の業績リストから必要なものにチェックを入れるといったような程度で済む作業である。
業績の登録、編集についてはちょっとした作り込みが必要と思われる。審査の公平性という観点から考えれば、応募時以降の情報は業績として表示されるべきではなく、業績として登録した情報はそれ以後に編集されるべきではない。これは何らかの応募時に業績として登録を行った情報については編集不可とすれば良いだろう。


かなり大雑把ではあるが、望ましい次期e-Radの体制から具体的な登録方法まで妄想してみた。「使い易い」かどうかという部分についてはユーザインタフェースの要素が大きいと思われるので何とも言えないが、「効率性」という部分では大きく改善されるのではないかと思う。かつ、想像する限り、審査の公平性・公正性も現状並に維持することができ、データベースの充実を期待することもできる。とはいえ、これはあくまでわたし個人の妄想に過ぎない。もっと良いアイディアは多々存在するだろう。ご意見ご質問がありましたらコメントいただけると幸いである。

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